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大アーモンド

 長年の三角関係に決着をつけるときがきた。彼女の誕生日、3人で仲良く食事をしようというのだ。私はそんな平和的なイベントには満足できない。彼女の目の前でライバルと対決してやる。
 しかしわれわれは大人なんだから、腕っぷしで勝負なんかしない。相手は空手の有段者だ。負けるとわかっている闘いをしないのが大人ってもんだろう?
 そうなれば、当然、誕生プレゼントで勝負することになる。ライバルは手ごわい。追えば逃げる、止まると誘う、したたかな彼女の手に落ち、老後の生活資金として蓄えた貯金をいくらつぎ込んでも顧みない、色ボケ爺だ。どんな高価なプレゼントを用意してくるかわからない。
 それに勝つにはダイヤモンドしかない。血塗られた悪魔が囁く「ダイヤモンドは永遠の輝き」。これに勝るプレゼントはあるまい。どんな女もいちころだ。
「おれはダイアモンドをプレゼントするよ」と事前に彼女の期待を高めておいた。
 街一番の小洒落た居酒屋で落ち合った当日、あの色ボケ爺め、ポケットから金額未記入の小切手を取り出して彼女に差し出した。くっそう、その手があったか。私はすっかり気後れして、消え入るような小声で彼女に言った。
「大アーモンド。しかも手作り」
 彼女は笑ってくれたが、私たちの間に気まずい空気が漂ったのも事実だ。
 いよいよ食事が終わって、二人のうちどちらに家まで送ってもらうかを決めるとき、彼女が下した選択は・・・

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