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双眼鏡

 ラン・ガン。ひとつの有効な戦術。もちろん、唯一ではない。むしろ私は長時間持久戦の方が好きだ。そこに思い切った見切りを持ち込み、複数のポイントを熟知していれば、機動力にものを言わせたラン・ガンは成り立つ。
 長時間持久戦の魅力は、フィールドの変化を目の当たりにすることだ。海には潮汐の周期的な変化があるので、必ずやってくる変化をじっくり待つというのも合理的な戦術なのだ。だが着目点を変えて、変化を探して積極的に打って出るという戦術も、十分にありだ。
 友にはラン・ガンの志向が強い。その提案をいつも受ける。それに対して私が渋る。申し訳ないなと思う。好みの問題とともに、体力の問題が忍び寄る。それを振り払う。もっとラン・ガンも取り入れよう。思っているだけではだめだ。そこで装備を導入することにした。
 8倍の双眼鏡。とても簡素な普及品だ。しかも中古屋で買った。7千円。倍率がそう高くないし、手振れがひどくてよく見えない。それでもこの双眼鏡は強力な武器になる。遠くの水平線の下、海面上を低く飛ぶカモメ。背景となる波の中に肉眼でその姿を見つけるのは至難の業だ。双眼鏡の役割はそのためだけでいい。目的は観察ではない。発見だ。

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